フレッシュホップフェスト2016

国産ホップのスター品種を

――スプリングバレーブルワリー田山智広さんに聞く

2015年4月、キリンビールがスプリングバレーブルワリー東京を代官山にオープンさせた。これ以前からもいわゆる大手ビールの「クラフト参入」は話題になっていたが、キリンビールが醸造所の併設店舗をオープンさせたことは、その中でも衝撃的なニュースだった。

スプリングバレーブルワリー東京は、その場でビールを造っているだけでなく、ビールの醸造工程がガラス張りで見えるようになっていたり、寿司とのペアリングを試みる「寿司フェス」を開催したりと、体験を重視している店舗でもある。もちろん「フレッシュホップフェスト」もそのひとつ。

そのスプリングバレーブルワリーでマスターブリュワーを務める田山智広氏は、ホップについてどのような考えを持っているのか。日本ビアジャーナリスト協会代表の藤原ヒロユキが話を聞いた。

スプリングバレーブルワリーのマスターブリュワーである田山智広氏(左)と日本ビアジャーナリスト協会代表の藤原ヒロユキ

ナショナルブランドは量の確保が重要

藤原ヒロユキ(以下、藤原)まず、キリンビールという大きな会社とスプリングバレーブルワリー(SVB)では、ホップの使い方の違いはあるのでしょうか。

田山智広(以下、田山)キリンビールのようなナショナルブランドで使うホップは、やはりある程度まとまった量が確保できないと使えないんです。希少なホップ、例えばシトラを使おうと思っても使えない。

藤原確かに、希少なホップでも量が確保できなければ使えませんからね。

田山でも、SVBなら使えるんです。なので、それこそホップメーカーさんでも名前がまだ付いていなくて通し番号しかついていないホップを、シングルホップというやり方で使っています。

藤原SVBではインフューザーも導入していますね。これにホップやフルーツなどを入れてビールを通すと、そのキャラクターを付けられるというもの。

田山SVBは醸造の可視化がコンセプト。缶に入ったビールって、一般の人にとっては、原料を混ぜればできてしまう工業製品のようなイメージがあると思うんです。実際にビールってどうやって造っているか知らないんです。だけど、本当ににナチュラルな原料で造ってるんですよということを、この場で体感できるようなコンセプトなんです。

だから、仕込みのタンクも透明。ホップや野菜など、自然の素材そのものを最後の製造工程として使って、他とは違ったビールができる。そこにお客さまも最後に携わることで、その時間を共有する。五感で感じることによって、ビールはいろいろな可能性があって楽しいものだということを知ってもらいたいんです。

醸造家が見る遠野産ホップの魅力とは

藤原先日、遠野のホップ畑を見学してきたのですが、醸造家として遠野産ホップの魅力はどこにあると考えていますか。

田山奥ゆかしいんです、ホップが。自己主張をするわけではないんですが、それでもしっかりキャラクターがあって、ノーブルな香りもある。苦味の質もいい。そして、α酸が高くない。α酸が高くないということは、逆に言うと醸造の際にたくさん投入できるということ。

藤原奥ゆかしいというのは東北っぽいですね。大騒ぎするわけではなく、物静かなんだけど信念があるというか。

田山キリンビールでは一番搾りに多く使っているんですよ。どちらかというと、黒子のような存在でしょうか。ベースのしっかりしたホップ感を作っていますね。もちろん、それを主役にして面白いビールも造っています。

藤原ビールのベースを支えているんですね。

田山ザーツやヘルスブルッカーのように、際立った特徴があるタイプではありません。でも、実はそれが貴重だったりするんです。邪魔をしないきれいな香りで使い勝手のいいホップ。ポテンシャルを秘めているホップだということも、最近強く感じています。

藤原いままではどちらかというと苦味を目的に使っていたのでしょうか。

田山きれいな柑橘系の香りを付けるという方向ですね。ただ、それもアクセントという程度で、いたずらに強調をするような使い方はしていません。でも、ゆくゆくはそういう使い方もしていきたいと考えています。

国産ホップを盛り上げたい

藤原国産ホップは品種が多くないですよね。私は与謝野でホップ栽培をしていて、アメリカ、ヨーロッパの品種を育てています。与謝野では品種改良をする能力はありませんが、アメリカやヨーロッパの品種も土壌や風土によって、何らかの違いが出るんじゃないかと期待しているんです。そういったことはあると思われますか。

田山ぶどうでもそうですが、テロワールのように土地の力はありますよね。

藤原かいこがねも山梨での突然変異ですし、そういうこともあるんじゃないかと期待しています。

田山育種を盛んにやっていた時代もあります。途中で中断したんですが、もう一度それを盛り上げていきたいですね。「キリン2号」も純粋な国産ということではなく、いろいろな海外の血が混ざっています。土着の品種に海外の品種が混ざっているんですね。

逆に、日本の品種をアメリカの品種とかけあわせて、それをアメリカで育てて選抜しているところもあります。そうやって遺伝子を組み合わせることでユニークなホップが出てくる。それには時間がかかりますが、チャレンジしたいですね。

スター品種で新しいビアスタイルを

藤原国産ホップは今後どうなっていくことが理想だと考えますか。

田山ソラチエースのようなスター品種、世界が注目するような品種が出てこないといけないですね。

藤原「いぶき」は世界でも人気が出るのではないでしょうか。

田山期待しています。また、日本ならではの代替不能なホップ、他の品種では代わりにならないホップをつくるのが理想です。例えば、そのホップがないと成り立たないビアスタイルがあるとか、ですね。

藤原アメリカンスタイルは、シトラス感あるホップがあってこそですからね。日本独自の他にはないキャラクターが必要ですね。

田山ホワイトビールは、小麦とオレンジピール、コリアンダーがうまく組み合わさって現在のような味わいになりました。それと似たような形で、日本のホップといろいろなものが渾然一体となって新しいビアスタイルができればと。

藤原国産ホップはこれからどんどん増えていってほしいと思っています。

田山これからも盛り上げていきましょう!

富江弘幸

ビアジャーナリスト・ビアライター

富江弘幸

1975年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国に留学し、四川大学海外教育学院修了。帰国後は新聞社で書籍等の編集者に。現在はビアライターとして活動中。ビアジャーナリストアカデミーの講師も勤める。
著書:BEER CALENDAR』(ワイン王国)
連載:あなたのしらない、おいしいビール』(cakes)
執筆:『ビール王国』(ワイン王国)、『厳選世界のビール手帖』(世界文化社)、『日本のクラフトビール図鑑』『ビールの図鑑』(マイナビ)、『極上のクラフトビールが飲める120店』(エンターブレイン)など

Twitter:hiroyukitomie