今年収穫した日本産ホップでつくったビールを楽しむお祭り

202091(火)1130(月)

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ホップサミット2020春、開催2020年2月21日(金)@福島県田村市「グリーンパーク都路」

山口紗佳

ライター 山口紗佳

2020年2月21日(金)、例年なら雪に覆われてもおかしくない時季ですが、この日は春めいた陽気すら感じる青空のもと、福島県田村市で「ホップサミット2020春」が開催されました。
当日はホップ生産関連32名、ビール醸造関連10名、日本ビアジャーナリスト協会を含む関係者7名の現地参加者49名に加えて、専用オンラインページでのライブ配信も行われました。

今回のコンテンツは下記の通りです。

【午前】ホップジャパン協同栽培圃場見学

  • わせがわホップファーム(圃場管理者:鈴木様)
  • 新田ファーム(圃場管理者:新田様)

【午後】第一部 ホップサミット2020 ※敬称略

  • 開会の挨拶(日本産ホップ推進委員会 スプリングバレーブルワリー株式会社 マスターブリュワー 田山智広)
  • ホップジャパンの活動報告(日本産ホップ推進委員会 株式会社ホップジャパン 代表取締役 本間誠)
  • FHFビアジャーナリスト公開インタビュー、1 テーマ:「醸造所とタッグを組んだ生産者」
    登壇:JTFファーム(株) 代表取締役社長 古川原琢
    (株)横浜ビール 醸造長 深田優
    進行:ビアジャーナリスト 野田幾子
  • FHFビアジャーナリスト公開インタビュー、2テーマ:「醸造家から生産者へ」
    登壇:株式会社信州東御市振興公社 オラホビール工場長 小林亮二
    進行:ビアジャーナリスト 野田幾子
  • FHFビアジャーナリスト公開インタビュー、3
    テーマ:「与謝野へ移住しホップ生産者へ」
    登壇:京都与謝野ホップ生産者組合 藤原ヒロユキ
    進行:ビアライター 富江弘幸

第二部

  • 岩手県 遠野ホップ生産の今 テーマ:「ビールの里構想の今」「ドイツ式圃場での栽培開始」
    (BEER EXPERIENCE株式会社 代表取締役社長 吉田敦史、同取締役 生産部ホップ事業クロップマネージャー 平松浩紀)
  • 最新!ホップ事情テーマ:「ルプリンパウダーの香味の秘密に迫る!」
    (キリンホールディングス株式会社 R&D本部 酒類技術研究所 内藏萌、同主幹研究員 村上敦司)
  • グループディスカッション(ファシリテーター:スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広)
  • 閉会の挨拶(日本産ホップ推進委員会 日本ビアジャーナリスト協会代表 藤原ヒロユキ)

ホップジャパン協同栽培圃場視察

午後のサミットに先立ち、午前は福島県田村市にある株式会社ホップジャパン(以下、ホップジャパン)の契約農家2軒の圃場視察が行われました。

福島県田村市大越町の「わせがわホップファーム」

福島県中央部、中通り地方の阿武隈高原に位置する田村市は、標高400m~700mに位置する高原都市です。気候は昼夜の寒暖差が大きく、阿武隈高原のカルスト台地が育むミネラル豊富な天然水を使った米や野菜など、農作物の栽培がさかんな地域として知られています。

ホップジャパンでは、田村市内3軒のホップ農家と協力し、収穫時につるを誘引したワイヤーの地上に下ろしてホップの摘み取り作業を行うウインチ式設備を開発導入。設備面からも栽培環境の改善に取り組んでいます。

手動式のハンドルでワイヤー昇降をする管理者の鈴木氏(右)

1軒目の「わせがわホップファーム」では、2年前に高さ6.5~7mの支柱を建て、2回目の収穫を実施。2.5mmのワイヤーを圃場全体で520~530本ほど張り、アロマ系ホップ中心に5品種栽培しています。2年目の収量は310株で約500㎏、初年度は収量の差がなかったものの、2年目では畑によって倍近くの差が出ているそうです。

2.5mmポリエチレン製ワイヤー、今のところ劣化は見られないそう

参加者からは、

「一反あたりの設備投資は?」
「隣り合うワイヤーが当たって擦れることは?」
「支柱は地下何mから埋まっているのか?」
「ワイヤーやウインチの材質は?」
「収穫期は毎日つるを昇降するのか?」

など、高所作業が不要な設備関連を中心に、実務的な質問が飛び交いました。

標高650mに位置する「新田ファーム」

続いて、2軒目の「新田ファーム」を視察。
わせがわホップファームより高所の標高650mに位置する新田ファームでは、27aの圃場で2年目と3年目の株を栽培。冷涼な環境のため病害虫被害が少なく、わせがわホップファームよりも消毒回数が少なくて済むそうです。気候的には乾燥しやすいものの、豊富な地下水が周辺の水田から巡ってくるため、夏場でも水やりは少なめ。畝間は広めの3.5m~4m、作業機械が入れる程度の間隔がある方が作業しやすいとのこと。

圃場説明をするホップジャパン代表の本間氏(左)と「新田ファーム」管理者の新田氏(中)

収穫期になるとハンドルが重くなるが、それでも手動で操作することができる

台風など風が強い日には、ワイヤーをたるませてホップ棚を下げ、風を逃がすことでダメージを減らすなど、ウインチ式設備ならではのメリットに参加者は舌を巻いていました。

ホップサミット2020春の会場「グリーンパーク都路」

続いてサミット会場である「グリーンパーク都路」に移動。
グリーンパーク都路は、広大な敷地内にバーベキューハウスやシャワールーム、多目的広場、公民館などを備えた元オートキャンプ場です。現在はホップジャパンの拠点として、今夏予定している「都路ホップガーデンブルワリー」開業に向けて、改装工事が進んでいます。
昼食後には、本間氏による施設案内がありました。

広大な敷地をどのように活用していくのかも今後の課題

そして、13時半より「ホップサミット2020春」開会。

スプリングバレーブルワリー株式会社 マスターブリュワー 田山智広氏

スプリングバレーブルワリー株式会社 田山氏より、開会に際して「前半部分は台風で中止となった2019年秋のコンテンツを実施し、後半部分を例年のような情報交換の場としたい。限られた枠の中で収穫のある会にするために、忌憚のない意見交換をしていただきたい」とコメントがありました。

続いて、田村市産業部長による挨拶、ホップジャパン代表 本間氏による「都路ホップガーデンブルワリー」開業に向けた官民一体の取り組みの説明を経て、会本番がスタートです。

FHFビアジャーナリスト公開インタビュー:醸造所とタッグを組んだ生産者

サミット前半の第一部は、昨年秋に実施予定だったコンテンツ。
日本ビアジャーナリスト協会所属メンバーが、ホップ生産者や醸造家の活動内容を聞き、さまざまな取り組み事例を紹介する公開インタビューです。

登壇:JTFファーム株式会社 代表取締役社長 古川原琢
   株式会社横浜ビール 醸造長 深田優
進行:ビアジャーナリスト 野田幾子

ビアジャーナリスト野田幾子氏(左)、JTFファーム古川原氏(中央)、横浜ビール深田氏(中央右)

JTFファーム株式会社は、横浜市港北区の「古川原農園」で2015年からホップ栽培を開始。露地野菜や花を栽培しながら、1株あたり4㎏の収量を目標にカスケードを育てています。第1回FHFから参加している横浜ビールは、地場産の野菜やフルーツを使ったビール醸造に積極的に取り組み、2019年のFHFでは古川原農園ともう1社が栽培したカスケード6㎏を使った、「超フレッシュホップIPA」を醸造しました。

夜も気温の下がらない横浜で栽培していることから、栽培適地に比べるとホップの香りが弱いため、JTFファームでは使用量と鮮度を重視しています。通常、ホップの収穫は午前中の涼しい時間帯に行いますが、横浜ビールでの煮沸窯投入から逆算した時間ギリギリの夕方まで収穫を行い、手もみ作業などを経て収穫後3時間で仕込み釜に投入しました。

両社に共通するのは「地元横浜での連携」
ホップの収穫体験ツアーなどホップやビールを軸にして、地域を巻き込んだ大きな流れにしたいと考えています。

「地域の農業を守ることは、自身の事業を守り育てること」
「地域社会に働きかけて農業を守っていかないと、やがて自分の農業経営も成り立たなくなる」

――異業種からの新規就農を通じて地域と交わることの大切さを感じた古川原氏は、農業が地域に果たすべき役割について語ります。右肩下がりの横浜の農業を守るために、「横浜で育てたホップを使ったビールを横浜で造り、横浜の人たちに飲んで喜んでもらう」というシンプルな喜びが地域活性化にフックになると熱弁をふるいます。横浜ビールの深田氏も、横浜のクラフトブルワリーの老舗として流れをけん引したいと締めくくりました。

地元産ホップ栽培×地元ブルワリーの連携。
両社のタッグは地元を巻き込んだ地域振興のキーとして期待されています。

FHFビアジャーナリスト公開インタビュー:醸造家から生産者へ

オラホビール工場長 小林亮二氏(中央)

登壇:株式会社信州東御市振興公社 オラホビール工場長 小林亮二
進行:ビアジャーナリスト 野田幾子

「オラホビール」の運営母体である株式会社信州東御市振興公社で、1994年の創業時から幅広く事業に関わってきた小林氏は、大学で醸造学を学び、1996年に醸造開始したオラホビールの初代醸造長を務めました。昨年の定年退職を機に、現在は営業とホップ栽培に携わっています。

1950年代当時、長野県東御市には緑豊かな信州早生のホップ畑が広がっていたといいます。
そこでホップ名産地の復活を願い、2010年からオラホビールでも栽培を開始。醸造所近くの荒れ地を開墾して10aの畑で4品種約170株のホップを育てています。カスケードなどの海外品種と比べて国産種は手間がかかりますが、栽培10年目を機に、日本産ホップ「MURAKAMI SEVEN」など、国産種に切り替えていきたいと小林氏は考えています。ホップ栽培を始めたことで、ビール醸造に対する考え方に変化が生まれたことがきっかけです。

「自分の手でホップを育てることで、ブルワーとして一層ビールへの愛着がわきます。それが商品開発の責任感にもつながりました。輸入したペレットを決められた分量だけ機械的に使うのではなく、栽培から収穫まで携わって原材料を知ることで、その特徴をいかした醸造をしていくべきだと思いますし、作り手の顔が見える安全なホップを使って、『国産』を意識した商品製造をしていきたいと思うようになりました」

株ごしらえやつる下げ、消毒など、重労働の多いホップ栽培と醸造の両方を手掛けるのは大変ですが、若い担い手には国産を大切にした「ジャパニーズエールの実現」を期待していると、小林氏は語ってくれました。

FHFビアジャーナリスト公開インタビュー:与謝野へ移住しホップ生産者へ

ビアライター富江弘幸氏(左)、京都与謝野ホップ生産者組合 藤原ヒロユキ(右)

登壇:京都与謝野ホップ生産者組合 藤原ヒロユキ
進行:ビアライター 富江弘幸

日本ビアジャーナリスト協会代表理事としてビールの普及活動を努めていた藤原氏は、やがてホップに強い関心を示すようになり、2015年から京都府与謝野町でホップ栽培を開始。現在は与謝野町に移住し、フリーランスのホップ農家としても活動しています。

「情熱だけで農業は続けられない」
栽培開始当初から趣味ではなく、事業化を視野に入れていた藤原氏。
ホップ栽培を地元与謝野町に根付く産業に育てるためには、製品として市場価値のあるホップを育てなければ地元の人たちは賛同してくれないといいます。実際にホップ栽培を経験して、とても片手間でこなせるものではないことを悟り、藤原氏は与謝野町への移住を決意しました。現状では17品種を栽培、収量を見込めるのはその半分程度だとか。
ホップ農家に転身するきっかけとして、「海外の審査会で日本のクラフトビールの特徴を聞かれたとき、答えられないのが悔しかった」と語った藤原氏は、日本の小規模醸造にも20年以上の歴史がありながらも、日本独自のビアスタイルがないことに伝え手として歯がゆい思いを抱いていました。最近では柚子や麹など、日本特有の副原料を使うブルワリーも増えてきましたが、中でもビールのキャラクターを大きく左右する「ホップ」に着目。
同じ品種でも風土や気候で香りに違いが出ることを知り、いずれ海外のブルワーに「日本産のホップを使いたい」と言わせるために、ホップ栽培に打ち込んでいるといいます。

こうして本格的に栽培に携わるようになって藤原氏が感じたことは、
「ホップって怖い!」
やればやるほど手がかかるし、ちゃんと収穫できるのか毎年不安だとか。
冬は凍えるような気温の中で何日もかけて株分けを行い、時期になれば早朝から草引きに勤しむなど、きちんと手間をかけていても虫食いや原因不明の変色が発生したり、強風に脅かされたりと、毎日肝を冷やしながらホップと向き合っているそう。

そんな藤原氏の目標は、高品質のホップを国内のブルワリーで使ってもらうこと。
そして、与謝野ホップで与謝野オリジナルのビールを造ること。
与謝野町でブルワリー設立希望者を募り、関連事業者と連携して自社ホップのブランド化をすすめたいと考えています。さらに、ホップに関連する一連事業をツーリズム化。
ホップ収穫祭に加えて、今年は観光協会と連携して登録者が好きなタイミングでホップ作業体験ができる「ホップレンジャー」システムを立ち上げ、慢性的な人手不足にあるホップ作業を手伝ってもらいつつ、ホップの実作業を学べるシステムを計画しています。

最後に「ジャパニーズスタイルの確立に必要なことは?」と問われた藤原氏は、
「少々いじわるな言い方になりますが……」と前置きし、
「一にも二にも品質第一。ホップを育てるなら中途半端なことはするな」と言い切りました。香りが悪く、品質の伴わないホップでビールを造っても、フレッシュホップを使う意味をなさないと。

「やるなら本気で」
栽培するならきちんと技術を学び、真面目に取り組んでもらいたい。
ホップ栽培の厳しさを経験し、国産ホップ普及を真剣に願う立場だからこそ発せられたストイックな本音でした。

第二部 岩手県 遠野ホップ生産の今

第二部スタートは、岩手県の農業法人BEER EXPERIENCE株式会社
代表の吉田敦史氏より、近年の遠野市におけるホップ栽培の現状と、官民一体とした持続的な生産体制の確立とまちづくりに取り組む「ビールの里構想」の現状共有がなされました。

BEER EXPERIENCE取締役 平松浩紀氏(左)

続いて、同取締役 生産部ホップ事業クロップマネージャーの平松浩紀氏が、2019年からスタートしたドイツ式ホップ畑を紹介。機械作業がしやすいように畑を集積、大規模化し、支柱の間隔も拡大。ドイツで使用している土寄せ機、防除作業機、糸つけ用の高所作業機、収穫用トラクターなど、ホップ栽培専用機械を導入することで各工程の機械化をすすめ、ホップ栽培の効率化と安定収穫を目指しています。

初年度の昨年は、工事が遅れて引き渡しが6月下旬に延びたことで栽培作業が遅れ、毬花が十分に成長しきらなかったことから香りも弱かったようですが、2020年度は収穫作業を見直すとのこと。さらに、MURAKAMI SEVENを中心に栽培する2.6haの第2圃場も加わり、生産体制の増強と安定化を目指しています。

生産量トップクラスを誇るドイツの専用機械を導入したことから、参加者からは機械の使い方やメンテナンスについての質問が次々と挙がりました。

最新!ホップ情報:ルプリンパウダーの香味の秘密に迫る!

キリン株式会社 酒類技術研究所 主幹研究員 村上敦司氏

キリン株式会社の村上博士と内藏氏からは、「ルプリンパウダー」についてのプレゼンテーションと最新の研究結果が紹介されました。この研究は、昨年10月にカナダで開催されたビール醸造の国際学会、MBAA(Master Brewers Association of the Americas)で発表されたもの。

ルプリンパウダーとは、乾燥粉砕したホップから苞(ほう)部分をふるいにかけて分離し、ルプリン粒のみを抽出、濃縮したものです。通常のペレットより少ない添加量で香りを付与することができるため、近年ではNew England IPAやBRUT IPAによく用いられています。

この研究では、まずルプリンパウダーの個性を知るために、「加工形状の違いによる香り」を比較評価。ルプリンパウダーと粉砕ホップ、通常のペレット、ルプリンペレットの4形状について官能試験を行いました。結果を要約すると、同ロットのMURAKAMI SEVENで比較したところ、苞を取り除いたルプリンパウダーは、他の加工形状に比べて苦みや渋みが少なく、すっきりとシンプルな香りが特徴であることが分かりました。苞を分離した後のルプリンパウダーとルプリンペレットでも、「複雑さ」という点で官能評価での香りに差が出ています。

キリン株式会社 酒類技術研究所 内藏萌氏

次に、成分値の差を比較するためにルプリンパウダーと粉砕ホップを分析すると、苞を分離したルプリンパウダーではポリフェノール値が大きく下がっていたため、ポリフェノール成分はホップの苞に多く含まれることがわかります。
さらに、ルプリンパウダーとそれをペレット化したルプリンペレットの比較分析を行うと、それぞれの形状で特有の成分が含まれていたことから、官能試験で判明した違いがデータでも実証されました。

ルプリンパウダー固有の成分についてはペレット加工後に見られなくなったことから、加工する際の圧力や熱で粒子が潰れたことによる形状変化がパウダー固有の成分に影響を与えたと考えられますが、その固有成分の詳細までは追い切れなかったとのこと。村上博士によると、収穫後のホップの香味成分の研究に関しては日本が最先端。それでも、ルプリンパウダー特有の400~500もの成分については、最新の研究でも解明されていないのです。

加工形状の違いによる香りの官能評価

ペレット化によってルプリンパウダー特有成分が消失

分析に使用したのは、香りを分析する超高精度の分析機器。
気体の成分を分子レベルで分離するガスクロマトグラフィー(GC)と、気体の質量分析装置を合わせたガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)の最上位機である「GC×GC TOFMS」というハイエンド分析装置です。その装置が保有する、何百万種類とある精密分子量のデータベースと照合しても、既存物質に該当しない成分が数百あまり検出されたといいます。
これは、「ホップの香り成分の半分が未知の物質である」という事実を示します。

長年に渡り大手ビールメーカー4社の分析の専門家がホップの香りの謎を紐解いてきましたが、ついにそれが限界に近づいたのではないかと村上博士は考えています。

「ホップについて『わからないことたくさんある』ということがわかりました」

そういって、会場の笑いを誘った村上博士。
「これから先は、人間にとって未知の世界なんです」

この言葉が印象的でした。
私たちがまだ到達できない世界、ホップは無限の可能性を秘めています。
引き続き、特有成分の性質や反応など詳細研究が期待されますが、今回発表されたルプリンパウダーの研究でも、「ホップの加工工程は香りに影響する」ということがわかりました。

「水分を含んだフレッシュホップと、成分が揮発した乾燥ホップ。ルプリン粒子が潰れていないリーフ状態のホップと、圧縮加工で粒子が潰れたペレット。加工工程の違いで成分にも有意差が出るため、造りたいビールにはどの形状のホップを使うのが効果的なのか、ブルワーの知見も合わせることで、そういった議論が広がるのではないか」

と、村上博士は締めくくりました。

グループディスカッション

最後のセクションは、ホップ生産者同士のグループディスカッション。
スプリングバレーブルワリーの田山氏をファシリテーターとして、ホップ生産者とブルワー、研究者が車座になって情報交換が行われました。

中でも熱を帯びた議論になったのが、「収穫タイミングの見極め方と香りの変化」について。
収穫時期の見極めには、開花からの日数や色の変化などさまざまな要素がありますが、微妙な手触りの変化をみたり、試験的に毬花をビールに入れて香りをチェックしたりと、生産者それぞれの判断方法を共有。キリンビールの醸造担当者からは、「収穫タイミングによって香り成分に違いがある」という研究結果が共有され、

「収穫が遅いと香気が増す一方で、雑味のもととなるポリフェノールも増えるため、必ずしも香気が最大化したときがベストな収穫タイミングとはいえない」

という意見も挙がりました。
施肥のタイミングや農薬の種類、土壌中に含まれる微量金属の影響については、村上博士が研究データに基づくアドバイスや見解を述べる一方で、村上博士の仮説に対して各地の生産者が経験を通じた観察結果や相違点などの情報を提供し、研究データと生産者の知見という相互作用のアプローチによってホップに対する理解を深め、さらなる可能性を見出す有意義な時間となりました。

最後は日本ビアジャーナリスト協会代表 藤原ヒロユキ氏の挨拶で「ホップサミット2020春」は閉会。新型コロナウイルスの影響で懇親会はキャンセルとなりましたが、送迎バスの発車時間直前まで参加者同士の交流が続きました。

生産者や醸造家、研究者など、ホップに関わるメンバーそれぞれの多角的な視点とアイディアが集まれば、栽培技術や醸造技術の向上につながります。今回のサミットでも参加者各自がヒントの種を持ち帰り、皆さんの事業にフィードバックしていただけたら幸いです。

その結果、今年もおいしいFHFビールが飲めることを期待しています。

山口紗佳
ライター

1982年愛知県出身、知多半島在住。中央大学法学部卒業。
名古屋で結婚情報誌制作に携わった後、東京の編集プロダクションで企業広報、教育文化、グルメ、健康美容、アニメなど多媒体の編集制作を経て静岡で10年間フリーの編集ライターとして活動。愛知拠点に東海のビール事情をお伝えします。

【制作実績】
フリーペーパー『静岡クラフトビアマップ県Ver.』、書籍『世界が憧れる日本酒78』(CCCメディアハウス)、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、グルメ情報サイト『メシ通』(リクルート)
【メディア出演】
静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」
静岡FMラジオ局k-mix「おひるま協同組合」
UTYテレビ山梨「UTYスペシャル ビールは山梨から始まった!?」
静岡新聞「県内地ビール 地図で配信」「こちら女性編集室(こち女)」