Fresh Hop Fest. 2018

ひろげよう!ホップの輪

今年収穫した国産ホップでつくったビールを楽しむお祭り

  • 9.1(Sat.)
  • 10.28(Sun.)

“種を継ぐ人” 日本在来種発祥の地で未来をつむぐ【小林ホップ農園】

山口紗佳

ライター 山口紗佳

甲斐黄金(かいこがね)

 

それは、偶然の産物だったという。
1957年、山梨県北杜市長坂町の圃場で栽培されていたホップ、「信州早生」の濃い緑色の茂みの中に、たったひとつだけ顔をのぞかせた鮮やかな黄緑色。早春に芽吹いた若草のような色合いを持つこの芽は、光を受けると黄金色に輝いて見えたという。

▲小林ホップ農園の「かいこがね」。黄色味を帯びているのがわかる(昨年撮影)

生育途中で芽が変色するこの突然変異種は、甲斐の国(山梨県)で生まれた黄金色のホップに由来して「甲斐黄金」と名付けられ、1980年3月31日に国産ホップとして初めて品種登録された。
今から38年前のことだ。

 

国産ホップのふるさと、山梨県北杜市

八ヶ岳と南アルプスの甲斐駒ヶ岳といった山々に囲まれ、冷涼で日照量が多く、寒暖差の大きい北杜市は、ホップ原産国とよく似た気候をもつ栽培適地だ。市内では戦前からホップ栽培が始まり、キリンビールとの契約で農家の数が増え、最盛期には山梨県全域で青々としたホップ棚が見られたという。

▲長坂町にあるホップ発祥の記念石碑【画像提供:北杜市郷土資料館】

ところが、やがて外国産の安価な輸入ホップが主流となり、多くの栽培農家が離農。
1990年代中頃になると、ついに北杜市のホップ栽培は途絶えた。

――と、思われていた。

しかし、1軒だけ。
1軒だけ、北杜市原産の「かいこがね」を大切に守り続ける農家があった。
使うあてもない作物を細々と育てていたのは、義父にあたる人物が品種登録に関わったという浅川定良氏だ。種の保存のために、御年80になる体でホップを育て続けていた浅川氏。しかし体力の限界も感じ、数年でホップ畑をたたむ心づもりだったという。

そこに、次世代の担い手が現れる。
伝統的な国産種継承に名乗り出たのが「小林ホップ農園」の小林吉倫氏。28歳の若手農家だ。

▲成長すると黄色い芽も深い緑色になる「かいこがね」。4月~6月頃の芽の先端はやわらかくて折れやすいため、食害に気を配るそう(2018年8月2日撮影)

埼玉県出身、信州大学で農学を専攻していた小林氏は、在学中から両親が居を構えていた北杜市をたびたび訪れていた。そこで「かいこがね」の存在を知り、唯一栽培していた浅川氏に弟子入りを志願したという。

小林氏「今でこそ継承を前向きにとらえてくださっていますが、当初は浅川さんのもとを訪れるたびに『やめたほうがいい』『ホップは儲からない』と言われ続けていました(笑)」

それでも小林氏が諦めなかったのは、いずれ地産品に関わる仕事に身を置きたいと考える中で、今後も需要が見込まれる国産ホップと、成長途中にある日本のホップ栽培に一筋の光を見出していたからだった。浅川氏の畑でみずみずしいかいこがねを手に取り、初めて感じたフレッシュホップの爽やかな香りや、天高く伸びるホップ棚の美しさにも心を奪われた。

そして、2014年に0.4ヘクタールの畑で試験栽培を開始。
浅川氏から譲り受けた「かいこがね」のほか、信州早生やセンテニアル、カスケードなど数種類を栽培。両親とともに圃場の世話をしながら、2年間をかけて岩手や山形など東北のホップ農家を訪ね回り、識者から栽培ノウハウを学んだ。現在は栽培から加工、出荷まで一連の作業を自社農園で行い、徹底した生育管理とデータ分析で、減農薬で安全なホップの品質向上に取り組んでいる。

▲八ヶ岳山麓で1.2ヘクタールの圃場を管理をする「小林ホップ農園」(中央が小林吉倫氏)

 

ホップの自由取引と栽培改革、品種改良に取り組む

小林ホップ農園で栽培したホップは、扱いやすいように多くの形態で小ロットから販売をしている。販売先は県内外のクラフトビールメーカーのほか、健康食品会社や化粧品メーカーなど多種多様。現在は栽培面積を1.2ヘクタールに広げ、国産、アメリカ、ドイツ、イギリス産の銘柄など約20種類を取り扱う。

▲乾燥ホップ、生のリーフホップ、ペレットなどさまざまな形態で販売

小林氏「幅広い品種を育てることで、ブルワーの求める香りや特徴に最適なホップを提供できるようにしたいと思っています。また、たとえば国産だと『信州早生』は育てやすい部類ですが、『ソラチエース』は樹を育てるのが難しかったり、品種によって育てやすさや収量が異なります。そういった品種固有の問題や品質のバラつきを解決したり、多品種の栽培データをとることで将来的には品種改良を行い、北杜市産の新種、国産オリジナル品種の開発に役立てたいと考えています」

収量が多く、日本の栽培環境に適合するオリジナルの開発によって、国産ホップの付加価値を高めるのが小林氏の目指すところ。そのために、栽培方法を始めとした加工、流通まで、品質向上に意欲を見せる。そんな小林氏のもとには、全国からホップ栽培の相談が次々に舞い込んでくる。

小林氏「今年に入ってから10件以上の問い合わせがありました。別の仕事もしているので限りはありますが、栽培方法や営農のフォローはできるだけ対応したいと思っています。栽培技術を底上げするためには、ホップ栽培に携わる人を増やすことも大事ですから」

▲今年も秋にはホップの個性がわかりやすいシングルホップのペールエールを販売する予定

2017年に収穫したホップは委託醸造のビールで使い、県外のビアパブなどでも提供された。
毬花と芽もグラタンや天ぷらなどの料理に使い、余すところなくホップを味わったという。今年のホップも、個性が際立つシングルホップ醸造のビールとして秋に味わえる予定だ。

8初旬現在、収穫期を迎えた小林ホップ農園。
夏空に向かってすらりと伸びたホップ棚では、鈴なりの毬花が風に揺れている。
絶滅寸前だった「かいこがね」も、地の歴史を物語る在来種として、再び北杜に根を下ろしたようだ。

 

【小林ホップ農園 圃場データ】

所在地:山梨県北杜市高根町上黒沢字東久保1524外
管理者:小林吉倫
栽培面積:1.2ヘクタール
栽培品種:カイコガネ、カスケード、チヌーク、ハラタウ、ザーツ、センテニアル、ニューポート、信州早生、ソラチエース、スターリング
栽培年数:4年目

山口紗佳

ライター 山口紗佳

1982年、愛知県出身静岡県在住。中央大学法学部法律学科卒業。
名古屋で結婚情報誌制作に携わった後、東京の編集プロダクションで企業広報、教育文化、グルメ、健康美容、ライフスタイル、アニメなど多媒体の制作経験を経て静岡県でフリーの物書きに。休日はグラウラーを積んでオートバイでツーリング。
実績:『世界が憧れる日本酒78』(CCCメディアハウス)、『東京カレンダー』(東京カレンダー)、『ビール王国』(ワイン王国)、グルメ情報サイト『メシ通』(リクルート)他

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